アパート・マンションお悩み相談室

マンション管理専門の一級建築士が、住まいのトラブル事例や解決策を呟きます。

失敗しない「長期修繕計画」の作り方。

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湯徳慎一郎です。

今回のテーマは「長期修繕計画」です。

 

長期修繕計画とは、

『いつ、どこをリフォームするか予め目標を決めておいて、それに向けてお金を貯めていこうね』 という事前計画です。

 

3年後にお風呂、5年後にキッチンのリフォームをする、みたいな感じで、マンションの工事も計画を立てた上で、お金を貯めていきましょう。

 

これと同じだと思っていただければ大丈夫です。

 

ただ、これ…結構揉めます。。。

 

管理会社・専門家(建築士)・マンションオーナー3者の価値観がバラバラすぎてトラブルになるケースも多いです。

 

今回は、マンションを買いたい方、住んでいる方には、絶対に知っていてほしい「長期修繕計画の基礎知識」をお伝えしていきます。

 

 

 

長期修繕計画とは?

長期修繕計画とは、25〜30年間でかかる「マンションの工事代」を予想して、マンションを買った人たちで協力してお金を貯めていこうねというものです。

 

マンションは設備ごとに「寿命として設定されている年数」があります。

 

壁のペンキは12年〜15年、屋根は12年〜25年、玄関ドアは20年、窓ガラスは25年、エレベーターは30年といった形で

 

このタイミングで工事をやったほうがいいですよ〜と推奨されている時期があります。

 

それを以下の表に基づき「計画」することから始めます。

 

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※画像は、国土交通省発行の「長期修繕計画ガイドライン」より抜粋

 

壁のペンキは12年ごとに塗り替えましょう、金額は1,000万円です。

屋根は12年ごとに工事しましょう、金額は1,000万円です。

エレベーターは30年目に交換しましょう、金額は1,200万円です。

 

これを先ほどの表に当てはめて一覧にするんですね。

  • 12年目に2,000万円かかる
  • 15年目には500万円かかる
  • 20年目には600万円かかる

だから、それまでにオーナー1人あたりいくらずつお金を集めましょう

 

これを「みんなで決める」のが長期修繕計画の全体像です。

 

お金の貯め方には2通りある

まず、大前提として、アパート・マンションは築年数が古くなるにつれて、リフォームする箇所が増えます

そのため、新築当初よりも年数が経過したマンションのほうが、工事費はたくさんかかります

その上で、どうやってお金を貯めていくか。方法は2つあります。

 

その1:
あらかじめ30年先を見越して、新築当初から大きい金額(オーナー1人あたり15,000円から20,000円)を積み上げていきましょう、という方法。

 

これを「均等積立方式」と言います。

 

その2:
最初のうちはお金がかからないから、初めは貯めていくお金を少なくして、みんなの費用負担を抑えましょう

最初は1人あたり5,000円からスタートして、6年目からは9,000円ずつ、12年目からは13,000円ずつ…みたいに段階的に値上げしていきましょう、という方法。

 

これを「段階積立方式」と言います。

 

ほとんどのマンションは「その2:段階積立方式」を採用しています。

 

実は、ここが管理会社と専門家(建築士)、マンションオーナーとで価値観が変わる、揉め揉めポイントなんです。

 

長期修繕計画で揉める1番のポイント

まず、管理会社が一番恐れることは「お金が足りなくなる」ことです。

そのため、管理会社は可能であれば均等積立方式で、そこそこの金額を積んでいてほしい、というのが「願い」です。

 

また、段階積立方式で後々値上げしようね、と予めみんなで決めていても、いざ上げるとなると絶対に揉めます

そういうのも管理会社としては面倒なので、均等積立方式を推す担当者も多いと思います。

 

専門家(建築士マンション管理士等)も、考え方は管理会社と同じです。

彼らは、プロの立場で30年間の工事計画を立てていくわけですから、お金が足りない、なんてことがあっては責任問題です。

 

そのため可能な限りお金を多く積み立てしてほしい」という計画を無意識に作ります

 

しかし作ってしまえば、運用するのは管理組合と管理会社なので、ある意味では無責任な立場でもあります。

 

一方、マンションオーナーはどうかというと…

 

計画通りにお金を払うのは「オーナー」です。

ただ、ほとんどのオーナーは、工事費を積み立てる以前に『住宅ローン』を払っているんですよね。

 

しかも、このお金は「掛け捨て」です。

例えば5年後に引っ越すことになりました。5年間で1円も使いませんでした。でも、5年分積み立てたお金は帰ってこないんです。

 

そんな諸々の背景があるので、オーナー側としては、これからのことも大事だけど、積み立てする金額は「必要最低限」にしたい、というのが本音なのです。

 

私、個人の見解

私は、必要最低限の金額は積立しなければならないと思います。

ただ、正直…ほとんどのマンションは、無駄に工事費を積み増ししすぎだと思っています。

 

私が長期修繕計画を見直す時の大前提は

 

「必要か分からないお金を積み増しするくらいなら、自分の好きなものを買ってほしい」

 

工事費なんて、発注先をよく検討すれば、いくらでも削減できます。

 

人間は、ある分のお金は全部使ってしまう生き物です。

無駄に積み増ししたお金は、無駄な工事、贅沢な工事、やらなくてもいい工事に消えていきます。

 

そんなものにお金を多額に積み増しするくらいなら、1,000円でも2,000円でも抑える方法を考えて、浮いた金額で美味しいものを家族にごちそうしてあげてください

 

最後に

私のもとには、管理組合、マンションオーナー様より「長期修繕計画を見てほしい」という問合せを多数いただきます。

 

『見直しの時期に来ている』
『他社が作った計画の妥当性はあるか』

といったご相談が多いです。

 

将来の工事費のために積み増しするお金を修繕積立金と言いますが、この修繕積立金は、一度値上げしたら、その金額から下げることは不可能です。

 

マンションによっては3万円も4万円も積み増ししているケースがありますが、そうなってから「高い」とご相談いただいても、正直対応致しかねます。

 

この長期修繕計画大丈夫かな?と思ったら、手遅れになる前にご相談ください。

首都圏近郊(東京・神奈川・千葉・埼玉)であれば、ぜひ物件を見た上でご相談に応じさせていただければと思います。

 

それでは、引き続き素敵なマンションライフをお楽しみください!